アマリリスと臆病な月




桜の木の下に食べ残しの種が散らかっていますのは、ヤドリギツグミのしわざです。或る朝、はっきりと見たんです。ヤドリギツグミが黒ずんださくらんぼをそれは美味しそうについばんでいるのを見たんです。わたしだって、あのさくらんぼ、食べてみたいと思っていました。しかし、きっと苦いか酸っぱいかで食べられるようなもんじゃないなと諦めることにしながら、またしつこく見上げていたところに、ヤドリギツグミがいたんです。
本当は、ヤドリギツグミかもツグミかも、そんときにはわからなかったんです。だから、電車の中で必死になって調べました。したら、いっぱい出てくるじゃないですか。ツグミの種類が。びっくりしました。ツグミにこんなにたくさん種類がいたなんて。スズメ目だとゆうことも、鵺のモデルになったツグミのことも、日本にはいないツグミも。
ツグミはとても親しみやすい鳥だったことを知り、嬉しくなりました。まぁ、カメラ目には敏感ですぐに逃げられてしまうけど。
こんなんでもいいから、路地裏に咲いている花の名前やさんざ踏み付けられて生えている草の種類、姿をなかなか見せてくれないけど枝の間からはっきりと声が聞こえてくるあの鳥たちの名前を、死ぬまでにもっといっぱい知りたいです。声を聞いただけでわかるようになったら、かっこいいな。
一度も読まないまま本を山のように積み上げて死んでしまってはいけないな。わたしは簡単には死んではいけないな。
あの朝から、さくらんぼはだいぶ減っているし、木の下に散らばった種はますますシミみたいに増えているけれど、ヤドリギツグミの姿にお目にかかれなくなりました。