「チョコレート」


日本語タイトル「チョコレート」。原題は“Monster's Ball”。
チャーリーとチョコレート工場」に出鼻をくじかれたからって
わけじゃないんだけどね。
なにもしてないと眠くなるし、ずっと前に録ってたビデオで、
やっと観たい気分になったし。


日本語のタイトルから勝手に想像していた甘い感覚などどこにもなかった。
ハンクが、行きつけのレストランで、いつもブラックコーヒーと
チョコレートアイスクリームとプラスチックスプーンをたのむ。
多分そこからきた「チョコレート」なんだろな。
ハンクが、死刑執行の任務に躊躇する息子ソニーにイライラして、
ヨーロッパのどこかの刑務所では死刑執行の前夜、看守たちは
馬鹿騒ぎをするんだ、と話す場面があった。
その馬鹿騒ぎのことを“Monster's Ball”と言っていた。


全然きれいな映画じゃない。救いのない日常。紛れもない現実。
死刑執行の場面だってハンパじゃなかった。
ハル・ベリー、別嬪さんだけど、やけに生々しい。
映画の全体の漂う空気に、キリキリして吐き気さえ覚える。
でも、不思議なのだ。
血や肉があらわに映し出された場面がたくさんあったわけではないのに、
生々しく感じたのはなぜだろう。
そこには血肉が噴き出していることを生々しく想像させる人間たち。


ハンクは、腰抜けだった。
半身不随の父親に怒鳴られたことを全く同じようにソニーに怒鳴っていた。
父親に逆らえない自分が歯がゆかく、息が出来なかった。
レティシアは、太った醜い息子が嫌いだった。
どんなにか苦労して働いても息子が全てを食べ尽くす。
でも、自分を愛してくれる残された唯一の存在がいなくなり、
息が出来なくなった。


失うことがなければ、2人は出会わなかったのかもしれない。
レティシアがハンクの真実を知った時、見せた怒りはなんだろう。
ハンクに?自分に?この世界に?
玄関前の階段でチョコレートアイスクリームを食べながら、
レティシアはハンクの肩越しに三つの墓石を見ていた。


巷では、人種差別やら死刑執行やらメロドラマやらが問題のような
映画だといってるようですが、もっと心を真っ白にして観てはいかが
ですか。
与えられた人生はひとつ。
この世界にはさまざまな社会環境と時代背景がある。
でも、人間のこころは、どこにいてもどの時代でも大して
変わらないんじゃないの。
見せかけだけに惑わされないで。悲しみも喜びも感じたものにはわかる。
わかったふりは迷惑だけど、簡単に投げ出すこともないと思うわ。


だから「チョコレート」
人間のさまざまな感情をえぐり出した恐ろしくも愛すべき映画。


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