いもせんべい


四月なのに春感が全くない、ボーッとして眠たい感はあるにはあるが、せっかくの気持ち良い眠気のそれを驚かせて叩き起こすような寒気があって、それは春の寒さではなく、かといってさすがにもう冬の寒さではない、気持ちのよい寒気ではない気持ちの悪い近頃。桜は七日ももたなかったような気持ちで去ってゆき、春がない、今年はこのまま春を迎えない気持ちの悪い年を進んでいるように思える。桜が咲いたから、春はきたんだとか、太陽の光だけで良い天気なんだとか、風がどの向きでどのくらいの強さで湿り気を帯びているかとか、なんにも感じないまま無条件に暦が春を告げているとか、鈍いひとの大きな口が全く気持ち悪いたらありゃしない。
テレビで台湾のせんべいやさんが味噌せんべいを焼いているのをみた。せんべいが食べたくなって、せんべいの歌を聴きながら眠った。せんべいの歌を聴いていると、ユーゲの夜を思い出す。ユーゲの二階、あそこはなにかの終着点とつながる異次元のようで、三度あそこで夜を過ごしてから、あらゆる欲望はすべて満たされてしまったようだ。澱んでしまうことが耐えられない、澱んでしまうまえに全部倒して、また更地からはじめる。その繰り返しをいつまで繰り返すのだろう。春は、ここにくるのは厭きてしまって順番なんてどうでもよくなってしまったのかもしれない。
冬のあいだに春を焦がれすぎたのかもしれない。